思ふ事有りとはなしに久方の
月夜となれば寝られざりけり
- 歌の意味
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思い悩む事があるというわけでもないのに、月の明るい夜となると寝られないのであった。
- 鑑賞
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巻第八 雑歌上 433
詞書「清慎公家屏風に」
特に思い悩む事があるわけでもないのに、月の明るい夜になると寝つけないと詠む歌である。理由もなく心をとらえる月夜の美しさを、眠れないという自身の様子で表している。詞書から、清慎公すなわち藤原実頼の家の屏風の絵に添えた歌とわかる。前歌の第四百三十二首と同じく、物思いがないのに月に心を動かされるという趣向で、二首が対をなしている。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆し、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。
初句「思ふ事」は、思い悩む事、の意で、前歌の二句「物思ふ」を受けている。
二句「有りとはなしに」は、あるというわけでもないのに、の意で、前歌の「物思ふとしもなけれども」とほぼ同じ内容を言い換えている。
三句「久方の」は、「月」を導く枕詞である。
四句「月夜となれば」は、月の明るい夜となると、の意で、「ば」は已然形について恒常的な条件を表す。
結句「寝られざりけり」は、寝ることができないのだった、の意で、「られ」は可能の助動詞、「けり」は気づきの詠嘆を表す。前歌が月を眺めた回数を振り返ったのに対し、この歌は眠れない夜の様子を詠んでいる。
つきよ:月の明るい夜
せいしんこう:清慎公。藤原実頼のおくり名
- 作者
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紀貫之
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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世に経るに物思ふとしもなけれども 月に幾度眺めしつらん
- 次の歌
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眺むるに物思ふ事の慰むは 月は憂き世の外よりや行く