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月草に衣は摺らん朝露に
濡れての後はうつろひぬとも

歌の意味
月草で衣を摺り染めにしよう。朝露に濡れた後では色があせてしまうとしても。
鑑賞
巻第八 雑歌上 474

詞書「題しらず」
 朝露に濡れた後には色があせてしまうとしても、月草で衣を摺り染めにしようと詠む歌である。色の移ろいやすい月草の染め色に、変わりやすい人の心を重ね、それでもなお思いを寄せようとする心を表している。前歌の第四百七十三首の「月の桂」から「月草」へと語を受け継ぎ、ここから本巻の第四百七十八首まで衣を詠む歌が続く。
 作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の宮廷歌人で、万葉集を代表する歌人として歌聖と仰がれ、三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌が人麻呂の作として多く収められている。
 万葉集巻七に、ほぼ同じ形の歌が作者を記さずに収められている。

 初句「月草に」は、月草で、の意で、月草は露草の古名である。前歌の「月の桂」から「月」の語を受け継いでいる。
 二句「衣は摺らん」は、衣を摺り染めにしよう、の意で、「ん」は意志の助動詞である。ここで句切れとなる。
 三句「朝露に」は、朝露に、の意である。
 四句「濡れての後は」は、濡れた後には、の意である。
 結句「うつろひぬとも」は、色があせてしまうとしても、の意で、「ぬ」は完了の助動詞、「とも」は逆接の仮定を表す。倒置によって上の句の決意に条件を添えている。

つきくさ:露草の古名。花の汁で衣を摺り染めにしたが、色があせやすい
する:摺る。草木の汁を衣にすりつけて染める
うつろふ:色があせる。心が変わる
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
久方の月の桂も折るばかり 家の風をも吹かせてしがな
次の歌
ちちわくに人は言ふとも織りて着む 我が機物に白き麻衣