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久方の雨には着ぬをあやしくも
我が衣手の干る時もなき

歌の意味
雨の中で着ているわけでもないのに、不思議なことに私の袖は乾く時もない。
鑑賞
巻第八 雑歌上 476

詞書「題しらず」
 雨の中で着ているわけでもないのに、不思議なことに私の袖は乾く時もないと詠む歌である。袖が濡れる理由をとぼけて不思議がることで、絶えず流れる涙と、その涙の原因となる物思いの深さを表している。前の二首の衣を受け、ここでは涙に濡れる袖を詠んでいる。
 作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の宮廷歌人で、万葉集を代表する歌人として歌聖と仰がれ、三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌が人麻呂の作として多く収められている。
 万葉集巻七にも、ほぼ同じ趣の歌が見える。

 初句「久方の」は、「雨」を導く枕詞である。
 二句「雨には着ぬを」は、雨の中で着ているわけではないのに、の意で、「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形、「を」は逆接の接続助詞である。
 三句「あやしくも」は、不思議なことに、の意である。
 四句「我が衣手の」は、私の袖が、の意である。
 結句「干る時もなき」は、乾く時もない、の意で、連体形で止めて余情を残している。乾かない理由を言わずに、涙であることを言外に示している。

ころもで:袖
ひる:干る。乾く
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
ちちわくに人は言ふとも織りて着む 我が機物に白き麻衣
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白波はたてど衣に重ならず 明石も須磨もおのがうらうら