暁の寝覚めの千鳥誰がためか
佐保の河原にをちかへり鳴く
- 歌の意味
-
暁に目覚めて鳴く千鳥は、誰のためにか、佐保の河原で繰り返し鳴いているのだろう。
- 鑑賞
-
巻第八 雑歌上 484
詞書「初瀬へ詣で侍りける道に、佐保山のわたりに宿りて侍りけるに、千鳥の鳴くを聞きて」
暁に目を覚ました千鳥が、誰のために佐保の河原で繰り返し鳴いているのだろうかと詠む歌である。詞書から、初瀬の長谷寺へ参詣する途中、佐保山のあたりに泊まった折、千鳥の鳴く声を聞いて詠んだ歌とわかる。旅寝の暁に、自分と同じく目覚めて鳴く千鳥の声に心を寄せ、旅の寂しさを表している。本巻の第四百八十六首、第四百九十一首にも、初瀬への道筋にあたる大和の地が詠まれている。
作者の「よしのぶ」は大中臣能宣である。大中臣頼基の子で、伊勢神宮の祭主を務めた。梨壺の五人の一人で、三十六歌仙に数えられる。
初句「暁の」は、夜明け前の暗いうちの、の意である。
二句「寝覚めの千鳥」は、目を覚まして鳴く千鳥、の意で、旅寝の作者も同じく目覚めていることを示している。
三句「誰がためか」は、誰のためにか、の意で、「か」は疑問の係助詞である。
四句「佐保の河原に」は、大和国の佐保川の河原に、の意で、佐保川は千鳥の名所である。
結句「をちかへり鳴く」は、繰り返し鳴いている、の意で、係助詞「か」を受けて連体形の「鳴く」で結んでいる。
をちかへる:繰り返す。また元に返る
はつせ:初瀬。大和国の地名で、長谷寺がある
- 作者
-
大中臣能宣
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
ささなみや近江の宮は名のみして 霞たなびき宮木守なし
- 次の歌
-
浅からぬ契り結べる心ばは 手向けの神ぞ知るべかりける