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人知れず越ゆと思ふらしあしひきの
山下水に影は見えつつ

歌の意味
人に知られずに山を越えていると思っているらしい。山陰を流れる水に、その姿はずっと映って見えているのに。
鑑賞
巻第八 雑歌上 492

詞書「題しらず」
 人に知られずに山を越えていると思っているらしいが、山陰を流れる水にその姿は映って見えていると詠む歌である。ひそかに事を運んでいるつもりでも、思わぬところに姿が現れてしまうことを、山下水に映る影によって機知的に表している。前の人麻呂の山の歌群を受けて山を越える人を詠み、本巻の第四百四十首の水に宿る月影と同じく、水に映る影をとらえている。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆し、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。

 初句「人知れず」は、人に知られずに、の意である。
 二句「越ゆと思ふらし」は、越えていると思っているらしい、の意で、「らし」は根拠のある推定の助動詞である。八音の字余りで、ここで句切れとなる。
 三句「あしひきの」は、「山」を導く枕詞である。
 四句「山下水に」は、山陰を流れる水に、の意である。
 結句「影は見えつつ」は、姿はずっと映って見えているのに、の意で、「つつ」は継続を表す。二句の推定の根拠を、倒置的に下の句で示している。

やましたみづ:山陰を流れる水
かげ:水に映った姿
作者
紀貫之
出典
拾遺和歌集
前の歌
いにしへにありけむ人も我がごとや 三輪の檜原にかざし折りけん
次の歌
おふの海に舟乗りすらん我妹子が 赤裳の裾に潮満つらんか