明日香川しがらみ渡し塞かませば
流るる水ものどけからまし
- 歌の意味
-
明日香川にしがらみを渡して流れをせき止めていたならば、流れる水もゆったりとしていただろうに。
- 鑑賞
-
巻第八 雑歌上 496
詞書「明日香の皇女を納むる時、詠める」
明日香川にしがらみを渡してせき止めていたならば、流れる水もゆったりとしていただろうにと詠む歌である。詞書から、明日香皇女を葬った時に詠んだ挽歌とわかる。激しく流れ去る川の水に、せき止めることのできなかった皇女の命を重ね、その死を悼む心を表している。前の二首の斎宮の旅に続き、本巻の第四百九十七首からは人の死や老いを悼む歌が続いていく。
作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の宮廷歌人で、万葉集を代表する歌人として歌聖と仰がれ、三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌が人麻呂の作として多く収められている。
万葉集巻二に、明日香皇女の殯宮の時に人麻呂が詠んだ長歌の反歌として、ほぼ同じ形の歌が収められている。
初句「明日香川」は、大和国の飛鳥を流れる川で、皇女の名の明日香と重なっている。
二句「しがらみ渡し」は、しがらみを川に渡して、の意である。
三句「塞かませば」は、せき止めていたならば、の意で、「ませ」は反実仮想の助動詞「まし」の未然形であり、結句の「まし」と呼応している。
四句「流るる水も」は、流れる水も、の意で、流れ去った皇女の命を重ねている。
結句「のどけからまし」は、ゆったりとしていただろうに、の意で、「まし」は反実仮想の助動詞である。実際にはせき止められなかった悲しみを表している。
しがらみ:川の流れをせき止めるため、杭を打ち竹や木の枝を絡めたもの
せく:水の流れをせき止める
をさむ:納む。葬る
- 作者
-
柿本人麻呂
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
世にふれば又も越えけり鈴鹿山 昔の今になるにやあるらん
- 次の歌
-
遅れゐて鳴くなるよりは葦鶴の などか齢を譲らざりけん