古典和歌stream

さを鹿のしがらみ伏する秋萩は
下葉や上になりかへるらん

歌の意味
雄鹿が足に絡ませて踏み伏せる秋萩は、下葉が上になってひっくり返っているのだろうか。
鑑賞
巻第九 雑歌下 514

詞書「答ふ」
 雄鹿が絡みつけて踏み伏せる秋萩は、下葉が上にひっくり返っているので、先に露を受けて色づくのだろうと答えた歌である。前歌の第五百十三首の伊衡の問いに対し、萩と鹿という秋の取り合わせを用いて、問いの理屈に沿った答えを示している。古今和歌集の「秋萩をしがらみ伏せて鳴く鹿の」の歌に見える、鹿が萩を絡みつけて伏せる情景を踏まえている。
 作者の「みつね」は凡河内躬恒である。古今和歌集の撰者の一人で、三十六歌仙に数えられる。

 初句「さを鹿の」は、雄鹿が、の意で、「さ」は接頭語である。
 二句「しがらみ伏する」は、足に絡みつけて踏み伏せる、の意で、鹿が萩の中を分けて行く様子をいう。
 三句「秋萩は」は、秋の萩は、の意で、前歌の第五百十三首の四句「萩の」を受けている。
 四句「下葉や上に」は、下葉が上に、の意で、係助詞「や」は疑問を表し、結句の「らん」で結ぶ係り結びである。前歌の二句「上より置く」と四句「下葉」の上下を入れ替えて答えている。
 結句「なりかへるらん」は、すっかりひっくり返っているのだろうか、の意で、「らん」は係助詞「や」を受けた連体形の結びである。

しがらみふす:からみつけて押し伏せる
なりかへる:すっかり変わる。ここでは上下がひっくり返る
作者
凡河内躬恒
出典
拾遺和歌集
前の歌
白露は上より置くをいかなれば 萩の下葉のまづもみづらん
次の歌
秋萩はまづさす枝より移ろふを 露の分くとは思はざらなむ