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君なくてあしかりけりと思ふにも
いとど難波の浦ぞ住み憂き

歌の意味
あなたがいなくて暮らしが悪くなり、葦を刈る身となったと思うにつけても、いっそう難波の浦は住みづらいことだ。
鑑賞
巻第九 雑歌下 540

詞書「難波に祓へしにある女まかりたりけるに、もと親しく侍りける男の葦を刈りて、あやしきさまになりて、道に逢ひて侍りけるに、さりげなくて年頃はえ逢はざりつる事など言ひ遣はしたりければ、男の詠み侍りける」
 あなたがいなくなって暮らしが悪くなり、葦を刈る身になったと思うにつけ、いっそう難波の浦は住みづらいと詠む歌である。詞書から、難波に祓えに出かけた女が、かつて親しくしていた男が葦を刈るみすぼらしい姿になっているのに道で出会い、それと気づかぬふりで長く会えなかったことなどを言い送ったところ、男が詠んだ歌とわかる。「悪しかり」と「葦刈り」を掛け、別れた後の落ちぶれた身の上を嘆いている。次歌の第五百四十一首の女の返しと一組の贈答である。
 この話は、大和物語の芦刈の段に、別れた夫婦の物語として見える。

 初句「君なくて」は、あなたがいなくて、の意である。
 二句「あしかりけりと」は、「あしかり」が「悪しかり」と「葦刈り」を掛ける掛詞である。暮らしが悪くなった意と、葦を刈る身となった意を重ねている。本巻の第五百三十八首の四句「あしかるわざを」と同じ掛詞を用いている。
 三句「思ふにも」は、思うにつけても、の意である。
 四句「いとど難波の」は、いっそう難波の、の意で、前の三首の第五百三十七首から続く難波の地名を受けている。
 結句「浦ぞ住み憂き」は、浦は住みづらい、の意で、係助詞「ぞ」を受けて形容詞「住み憂し」の連体形で結ぶ係り結びである。前歌の第五百三十九首の四句「すみよし」と対比をなし、次歌の第五百四十一首の結句「浦は住み憂き」にそのまま受け継がれている。

はらへ:祓へ。罪や穢れを除く神事
あしかり:「悪しかり」と、「葦刈り」を掛ける
すみうし:住み憂し。住むのがつらい
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
都には住みわびはてて津の国の すみよしと聞く里にこそ行け
次の歌
あしからじよからむとてぞ別れけん 何か難波の浦は住み憂き