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名には言へど黒くも見えず漆河
さすがに渡る水はぬるめり

歌の意味
漆川は、名には漆と言っても黒くは見えない。それでもさすがに、渡る水は漆を塗ったように、ぬるんでいるようだ。
鑑賞
巻第九 雑歌下 549

詞書「題しらず」
 漆川は名に漆とあっても黒くは見えないが、さすがに渡る水はぬるんでいて、漆を塗ったようだと詠む歌である。地名の漆川の「漆」を取り上げ、黒くないという名と実の食い違いを示しながら、「塗る」と「温る」の掛詞で、名にふさわしいところも見いだしている。前の二首の第五百四十七首、第五百四十八首に続く、名ばかりの地名を詠む一連の三首目であり、前の二首が名と実の違いを示して終わるのに対し、この歌は名に通う点を見つけて一連を結んでいる。

 初句「名には言へど」は、名には言っても、の意で、六音の字余りの句である。前の二首の初句「名のみして」と同じく、名を取り上げて歌を始めている。
 二句「黒くも見えず」は、黒くは見えない、の意で、漆の黒さを念頭に置いている。
 三句「漆河」は、名に「漆」を持つ川で、二句の「黒く」と結びつけている。
 四句「さすがに渡る」は、それでもやはり渡る、の意で、上の句の名と実の違いを受けて転じている。
 結句「水はぬるめり」は、水はぬるんでいるようだ、の意で、「ぬる」は漆を「塗る」と、水が「温る」を掛ける掛詞である。「めり」は推定の助動詞である。

ぬる:漆を「塗る」意と、水が「温る(ぬるくなる)」意を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
名のみして成れるも見えず梅津河 井堰の水も漏ればなりけり
次の歌
世の中にあやしき物は雨降れど 大原河のひるにぞありける