古典和歌stream

ちはやぶる神の保てる命をば
誰がためにか長くと思はん

歌の意味
神が保ってくださっているこの命を、いったい誰のために長くあってほしいと思うだろうか。
鑑賞
巻第十 神楽歌 596

詞書「題しらず」
 神が保ってくださっている命を、いったい誰のために長くあれと思うだろうかと詠む歌である。反語の形で、ほかならぬあの人のためにこそ命が長くあってほしいと願う心を表している。命は神の定めるものであるという思いに立ちつつ、その命を惜しむ理由を人への思いに求めている。次歌の第五百九十七首とともに、「ちはやぶる」で始まる人麻呂の歌が二首並ぶ。
 作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。持統天皇、文武天皇の時代に仕えた宮廷歌人で、歌聖と称される。

 初句「ちはやぶる」は、「神」を導く枕詞である。次歌の第五百九十七首の初句、第六百一首の初句も「ちはやぶる」で始まる。
 二句「神の保てる」は、神が保っている、の意で、「る」は存続の助動詞「り」の連体形である。
 三句「命をば」は、命を、の意で、「ば」は「を」を強める。
 四句「誰がためにか」は、誰のためにか、の意で、係助詞「か」は反語を表し、結句の「ん」の連体形で結ぶ係り結びである。
 結句「長くと思はん」は、長くあれと思うだろうか、の意で、反語により、あの人のためにこそ長くあってほしいという思いを示している。

ちはやぶる:「神」にかかる枕詞
たもつ:保つ。持ちこたえさせる
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
禊する今日唐崎におろす網は 神のうけひくしるしなりけり
次の歌
ちはやぶる神もおもひのあればこそ 年経て富士の山も燃ゆらめ