恋すてふ我が名はまだき立ちにけり
人知れずこそ思ひそめしか
- 歌の意味
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恋をしているという私の噂は、早くも立ってしまったことだ。人に知られないように、ひそかに思い始めたばかりだったのに。
- 鑑賞
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巻第十一 恋歌一 621
詞書「天暦御時歌合」
恋をしているという私の噂は早くも立ってしまった、人に知られないようにひそかに思い始めたばかりなのに、と詠む歌である。秘めていたはずの恋が、思い始めたばかりのうちに世間に知られてしまった驚きと困惑を表している。詞書から、村上天皇の天暦の御代に催された歌合、すなわち天徳四年の内裏歌合で詠まれた歌とわかる。この歌合で次歌の第六百二十二首の平兼盛の歌と番えられ、判者が優劣を決めかねた末に、兼盛の歌が勝ちとされたと伝えられる。
恋の巻の巻頭に、恋のはじめを「思ひそめしか」と詠む歌を置いている。巻末の第六百九十七首が、夜が明けるたびに恋しく思わない日はないと詠むのと、恋の始まりと絶えることのない恋しさとで、巻の始めと終わりが呼応している。
作者の壬生忠見は、古今和歌集の撰者の一人である壬生忠岑の子である。官位は低かったが歌にすぐれ、三十六歌仙に数えられる。この歌は百人一首に採られている。
初句「恋すてふ」は、恋をしているという、の意で、「てふ」は「といふ」がつまった形である。
二句「我が名はまだき」は、私の噂は早くも、の意で、「名」は評判、うわさをいう。「まだき」は、まだその時でないのに早くも、の意である。
三句「立ちにけり」は、立ってしまったことだ、の意で、「に」は完了、「けり」は詠嘆の助動詞である。ここで句切れとなる三句切れの歌で、下の句と倒置の関係にある。
四句「人知れずこそ」は、人に知られないように、の意で、係助詞「こそ」は結句の「しか」で結ぶ係り結びである。次歌の第六百二十二首の初句「忍ぶれど」と、恋を人に隠す心を共有している。
結句「思ひそめしか」は、思い始めたのに、の意で、「しか」は過去の助動詞「き」の已然形である。「こそ」の結びが逆接の意を含み、上の句に返っている。
な:名。評判、うわさ
おもひそむ:思ひ初む。思い始める
うたあはせ:歌合。歌人を左右に分け、歌の優劣を競う催し
- 作者
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壬生忠見
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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めづらしき今日の春日の八乙女を 神もうれしと偲ばざらめや
- 次の歌
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忍ぶれど色に出でにけり我が恋は 物や思ふと人の問ふまで