天雲の八重雲隠れ鳴る神の
音にのみやは聞きわたるべき
- 歌の意味
-
天の雲の幾重にも重なる雲に隠れて鳴る雷のように、噂にばかり聞き続けていてよいものだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 628
詞書は前の歌に続き「題しらず」
天雲の幾重もの雲に隠れて鳴る雷のように、噂にばかり聞き続けていてよいものだろうか、と詠む歌である。上の句を序詞とし、姿を見せずに音だけを響かせる雷に、噂を聞くばかりで逢えない恋人をよそえている。前歌の第六百二十七首の「音に聞く」を受け、噂だけの恋のもどかしさを詠む。万葉集の巻十一に、ほぼ同じ趣の歌が見える。
作者の「人麿」は柿本人麻呂である。持統天皇、文武天皇の時代に仕えた宮廷歌人で、歌聖と称される。
初句「天雲の」は、天の雲の、の意である。
二句「八重雲隠れ」は、幾重にも重なる雲に隠れて、の意である。
三句「鳴る神の」は、雷の、の意で、ここまでが四句の「音」を導く序詞である。
四句「音にのみやは」は、噂にばかり、の意で、係助詞「やは」は反語を表し、結句の「べき」で結ぶ係り結びである。前歌の第六百二十七首の初句「音に聞く」と同じく「音」の語を用いている。
結句「聞きわたるべき」は、聞き続けていてよいものか、いやよくない、の意で、「わたる」は動作が続く意を添える。
なるかみ:鳴る神。雷
やへぐも:八重雲。幾重にも重なった雲
ききわたる:聞きわたる。聞き続ける
- 作者
-
柿本人麻呂
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
音に聞く人に心をつくばねの みねど恋しき君にもあるかな
- 次の歌
-
見ぬ人の恋しきやなぞおぼつかな 誰とか知らむ夢に見ゆとも