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あな恋しはつかに人をみづの泡の
消えかへるとも知らせてしがな

歌の意味
ああ恋しい。ほんのわずかにあの人を見た。水の泡が消えるように、身も消え入るほどに思っていると、知らせたいものだ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 636

詞書「堤の中納言の御息所を見てつかはしける」
 ああ恋しい、ほんのわずかに見たあの人に、水の泡が消え入るように身も消え入るほど思っていると知らせたいものだ、と詠む歌である。詞書から、藤原実頼が堤中納言の御息所を見て贈った歌とわかる。「みづ」に「見つ」と「水」を掛け、ちらりと見ただけで心を奪われた思いを、はかない水の泡にたとえている。前の第六百三十五首の「君に知らせむ」を受け、ここでも「知らせてしがな」と、思いを知らせたい心を詠む。
 作者の「小野宮太政大臣」は藤原実頼である。関白藤原忠平の長男で、関白太政大臣に至り、小野宮流の祖となった。諡は清慎公である。

 初句「あな恋し」は、ああ恋しい、の意で、「あな」は感動詞である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
 二句「はつかに人を」は、ほんのわずかに人を、の意である。
 三句「みづの泡の」は、「みづ」が人を「見つ」意と、「水」を掛ける掛詞である。六音の字余りの句である。次歌の第六百三十七首の三句「水の泡に」と、同じ語で応じられている。
 四句「消えかへるとも」は、すっかり消え入るほどだとも、の意で、泡が消えることと、身が死ぬほどに思い焦がれることを重ねている。
 結句「知らせてしがな」は、知らせたいものだ、の意で、「てしがな」は自己の願望を表す終助詞である。

みづ:人を「見つ」意と、「水」を掛ける
きえかへる:消え返る。すっかり消える、死ぬほどに思い悩む
みやすどころ:御息所。天皇に仕える女御や更衣
作者
藤原実頼
出典
拾遺和歌集
前の歌
いかでかはかく思ふてふことをだに 人づてならで君に知らせむ
次の歌
長からじと思ふ心は水の泡に よそふる人の頼まれぬかな