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大井川下す筏の水馴れ棹
見馴れぬ人も恋しかりけり

歌の意味
大井川を下す筏の、水に馴れた棹ではないが、見馴れていない人も恋しいものであったよ。
鑑賞
巻第十一 恋歌一 639

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 大井川を下る筏の水馴れ棹ではないが、まだ見馴れていない人も恋しいものだったと詠む歌である。上の句は同音の「見馴れぬ」を導く序詞で、筏師の使い慣れた棹と対比して、まだ親しくもない人を恋う気持ちを表している。前歌の第六百三十八首の小舟の碇縄に続き、川を下る筏を序に用いている。

 初句「大井川」は、山城国の嵐山のあたりを流れる大井川のことで、丹波から筏で材木を流し下した。
 二句「下す筏の」は、下っていく筏の、の意である。前歌の第六百三十八首の二句「海人の小舟の」と、水辺の舟を詠む点で共通している。
 三句「水馴れ棹」は、水に馴れた棹の意で、ここまでが同音の「見馴れ」を導く序詞である。
 四句「見馴れぬ人も」は、見馴れていない人も、の意で、三句の「水馴れ」と同音を重ねている。
 結句「恋しかりけり」は、恋しいものであった、の意で、「けり」は気づきの詠嘆を表す。

みなれざを:水馴れ棹。使い込んで水に馴れた棹
みなる:見馴る。見て親しむ、見慣れる
いかだ:筏。材木を組んで川を流し下すもの
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
湊出づる海人の小舟の碇縄 くるしきものと恋を知りぬる
次の歌
水底に生ふる玉藻のうちなびき 心を寄せて恋ふるこのころ