奥山の岩垣沼の水隠りに
恋ひや渡らん逢ふよしをなみ
- 歌の意味
-
奥山の、岩に囲まれた沼の水が隠れているように、心に秘めたまま恋い続けるのだろうか。逢う手立てがないので。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 661
詞書は前の歌に続き「題しらず」
奥山の岩に囲まれた沼の水が隠れているように、人知れず心に秘めて恋い続けるのだろうか、逢う手立てがないので、と詠む歌である。人目につかない山奥の沼に、表に出せない秘めた恋をよそえている。前の第六百五十九首、第六百六十首が限りない思いを訴えたのに対し、ここでは思いを内に閉じこめる恋を詠む。万葉集の巻十一に、ほぼ同じ趣の歌が見える。
作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。持統天皇、文武天皇の時代に仕えた宮廷歌人で、歌聖と称される。
初句「奥山の」は、山の奥深くの、の意である。
二句「岩垣沼の」は、岩が垣のように周りを囲む沼の、の意である。
三句「水隠りに」は、水に隠れるように、の意で、心に秘めて表に出さないことをいう。ここまでが序詞のはたらきをしている。
四句「恋ひや渡らん」は、恋い続けるのだろうか、の意で、係助詞「や」は疑問を表し、「ん」の連体形で結ぶ係り結びである。ここで句切れとなる四句切れの歌である。第六百三十一首の結句「恋ひやわたらむ」と同じ言い回しである。
結句「逢ふよしをなみ」は、逢う手立てがないので、の意で、「を〜み」は原因や理由を表す。倒置して四句の理由を示している。
いはかきぬま:岩垣沼。岩が垣のように周りを囲む沼
みごもり:水隠り。水中に隠れること。心に秘めること
よし:由。手段、方法
- 作者
-
柿本人麻呂
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
海も浅し山もほどなし我が恋を 何によそへて君に言はまし
- 次の歌
-
あまた見し豊の禊のもろ人の 君しも物を思はするかな