- 歌の意味
-
人知れず思う心をあなたの家にとどめながら、私はいったい幾度、あなたの家の前を通り過ぎるのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 恋歌一 687
詞書「懸想し侍りける女の家の前を渡るとて、言ひ入れ侍りける」
人知れず思う心をあなたの家にとどめながら、幾度その前を素通りしていくのだろうかと詠む歌である。詞書から、思いを寄せていた女の家の前を通るときに、家の中に言い入れた歌とわかる。心は相手の家にとどまっているのに、身は立ち寄ることもできずに通り過ぎるしかない、もどかしい思いを表している。
初句「人知れず」は、人に知られないように、の意で、第六百七十六首の初句と同じ句である。
二句「思ふ心を」は、恋しく思う心を、の意で、第六百二十三首の四句と同じ句である。
三句「とどめつつ」は、とどめながら、の意で、心を相手の家に残していくことをいう。
四句「幾度君が」は、いったい幾度あなたの、の意である。
結句「宿を過ぐらん」は、家を通り過ぎるのだろう、の意で、「らん」は現在推量の助動詞で、四句の疑問の語「幾度」を受けて連体形で結んでいる。
やど:宿。住まい、家
いひいる:言ひ入る。外から家の中へ言葉を伝え入れる
けさう:懸想。思いをかけること、恋い慕うこと
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
あはれとし君だに言はば恋ひわびて 死なん命も惜しからなくに
- 次の歌
-
時雨にも雨にもあらで君恋ふる 年のふるにも袖は濡れけり