恋ひわびぬ音をだに泣かむ声立てて
いづこなるらん音無の里
- 歌の意味
-
恋しさに思い疲れてしまった。せめて声を立てて泣こう。声を立てても人に聞かれない音無の里は、どこにあるのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十二 恋歌二 749
詞書は前の歌に続き「題しらず」
恋に思い疲れてしまった、せめて声を立てて泣こう、音のしないという音無の里はどこにあるのだろうかと詠む歌である。忍ぶ恋の苦しさに耐えかね、声を上げて泣いても人に知られない所を求める心を、音無という地名に託して表している。次歌の第七百五十首は、音無の川を詠み、音無の名を受け継いでいる。
初句「恋ひわびぬ」は、恋しさに思い疲れてしまった、の意で、「ぬ」は完了の助動詞である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
二句「音をだに泣かむ」は、せめて声を立てて泣こう、の意で、「だに」は、せめて〜だけでも、の意を表す。ここでも句が切れている。
三句「声立てて」は、声を立てて、の意で、二句の「音」を受けて重ねている。
四句「いづこなるらん」は、どこにあるのだろうか、の意で、「らん」は現在推量の助動詞である。
結句「音無の里」は、紀伊国の音無の里で、体言止めである。声を立てて泣く心と、音の無いという地名とを対比している。次歌の第七百五十首の初句「音無の」と同じ語である。
こひわぶ:恋ひわぶ。恋に思い悩む
ねをなく:音を泣く。声を立てて泣く
おとなし:音無。紀伊国の地名
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
秋霧の晴れぬ朝の大空を 見るがごとくも見えぬ君かな
- 次の歌
-
音無の川とぞつひに流れける 言はで物思ふ人の渡りは