古典和歌stream

秋は我が心の露にあらねども
物嘆かしき頃にもあるかな

歌の意味
秋は私の心に置く露というわけではないけれども、なんとなく嘆かわしい季節であることよ。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 776

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 秋は私の心に置く露ではないのに、なぜか物嘆かわしい季節であることよと詠む歌である。涙を思わせる露は秋の景物であるが、秋そのものは心の露ではないのに、この季節には自然と心が沈み嘆かわしくなると、秋の物悲しさに恋の憂いを重ねている。前歌の第七百七十四首の秋の夜の露を受けている。
 本巻の巻末の歌である。巻頭の第六百九十八首が春の野に生える「なき名」を詠んで恋の憂いを始めたのに対し、巻末は秋の物嘆かしさで結び、春から秋へと移る季節の景物で巻の始めと終わりが呼応している。

 初句「秋は我が」は、秋は私の、の意である。
 二句「心の露に」は、心に置く露に、の意で、露は涙を思わせる。前の第七百七十四首の初句「露だにも」と、秋の露を共有している。
 三句「あらねども」は、ないけれども、の意で、「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形、「ども」は逆接を表す。
 四句「物嘆かしき」は、なんとなく嘆かわしい、の意で、「物」は漠然とした意を添える接頭語である。
 結句「頃にもあるかな」は、季節であることよ、の意で、「かな」は詠嘆を表す。巻頭の第六百九十八首の結句「人の知らぬよ」と同じく詠嘆で結び、春の嘆きから秋の嘆きへと巻を閉じている。

ものなげかし:物嘆かし。なんとなく嘆かわしい
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
今更に訪ふべき人も思ほえず 八重むぐらして門させりてへ
次の歌
あしひきの山下風も寒けきに 今宵も又や我が独り寝ん