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時の間も心は空になるものを
いかで過ぐしし昔なるらむ

歌の意味
わずかな間でも、心は上の空になってしまうものなのに、あなたに逢う前の昔は、どのようにして過ごしていたのだろうか。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 850

詞書「元輔が婿になりて、あしたに」
 あなたと離れるとわずかな時の間も心が上の空になるのに、逢う前の昔はどうして過ごせていたのだろうかと詠む歌である。結ばれた翌朝の、片時も離れがたい思いを、過去の自分への不思議さとして表している。
 詞書によれば、清原元輔の娘の婿となり、初めて共寝をした翌朝に贈った後朝の歌である。婿となって通い始めた喜びと、離れているひとときさえ耐えがたい心が詠まれている。
 作者の「藤原実方朝臣」は、藤原定時の子で、叔父の藤原済時の養子となった。左近衛中将を務めたのち陸奥守として下り、任地で没した。中古三十六歌仙の一人で、百人一首の「かくとだに」の歌で知られる。

 初句「時の間も」は、わずかな時の間でも、の意で、「も」は強調を表す。
 二句「心は空に」は、心は上の空に、の意である。本巻の第九百九首の結句「空にこそなれ」と、恋に心が浮き立つさまを「空」で言い表す点を共有している。
 三句「なるものを」は、なってしまうものなのに、の意で、「ものを」は逆接を表す。
 四句「いかで過ぐしし」は、どのようにして過ごしたのか、の意で、「いかで」は疑問を表し、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 結句「昔なるらむ」は、昔であったのだろうか、の意で、「らむ」は原因を推量する助動詞である。逢う前の過去を不思議に思う気持ちで結んでいる。

ときのま:時の間。ほんのわずかな時間
すぐす:過ぐす。月日を過ごす
作者
藤原実方
出典
拾遺和歌集
前の歌
朝寝髪我は梳らじうつくしき 人の手枕触れてしものを
次の歌
白波のうちしきりつつ今宵さへ いかでか独り寝るとかや君