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岩代の野中に立てる結び松
心も解けず昔思へば

歌の意味
岩代の野の中に立っている結び松のように、私の心も解けることがない。昔のことを思うと。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 854

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 岩代の野中に立つ結び松の枝が結ばれたままであるように、昔を思うと心もふさがって解けないと詠む歌である。結ばれた松の枝と結ぼれた心を重ね、過ぎ去った昔への思いを詠んでいる。
 岩代の結び松は、有間皇子が謀反の疑いで護送される途中、松の枝を結んで無事を祈ったと伝えられるものである。その悲劇を偲ぶ心が、恋の巻では、昔を思って晴れない心の歌として収められている。
 作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の宮廷歌人で、万葉集を代表する歌人として歌聖と仰がれ、三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌が人麻呂の作として多く収められている。
 万葉集巻二に、長意吉麻呂が結び松を見て悲しんだ歌として、結句を「いにしへ思ほゆ」とする類歌が収められている。

 初句「岩代の」は、紀伊国の地名の岩代の、の意で、結び松で知られる歌枕である。
 二句「野中に立てる」は、野の中に立っている、の意で、「る」は存続の助動詞「り」の連体形である。
 三句「結び松」は、枝を結び合わせた松のことで、ここまでが四句の「解けず」を導く序詞となっている。「結び」と「解け」は縁語である。
 四句「心も解けず」は、心も解けない、ふさがったままだ、の意である。結ばれた松の枝と、晴れない心を重ねている。ここで句切れとなる。
 結句「昔思へば」は、昔のことを思うと、の意で、「ば」は順接の確定条件を表す。四句と倒置になり、心が解けない理由を後から示している。本巻の第八百六十首の「昔の人」、第八百五十首の「昔なるらむ」と、昔を思う心が本巻にたびたび詠まれている。

いはしろ:岩代。紀伊国の地名。有間皇子の結び松で知られる
むすびまつ:結び松。無事や約束を祈って枝を結び合わせた松
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
湊入りの葦分け小舟障り多み 我が思ふ人に逢はぬころかな
次の歌
我が宿は播磨潟にもあらなくに あかしもはてて人の行くらん