古典和歌stream

人知れず落つる涙の積もりつつ
数かくばかりなりにけるかな

歌の意味
人知れず落ちる涙が積もり積もって、水に数を書くほどに、これほどまでになってしまったことだ。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 878

詞書「女のもとに遣はしける」
 人に知られずに落ちる涙が積もり重なって、水に数を書くほど、これほどまでになってしまったと詠む歌である。ひそかに流し続けた涙の多さで、打ち明けられない恋の深さを女に訴えている。
 詞書によれば、女のもとに贈った歌である。
 作者の「藤原惟成」は、藤原雅材の子で、花山天皇の側近として重んじられ、五位摂政と呼ばれた。天皇の出家に従って出家した。
 古今和歌集の恋歌一の「行く水に数かくよりもはかなきは思はぬ人を思ふなりけり」を踏まえ、水に数を書くというはかない行いを涙に重ねている。

 初句「人知れず」は、人に知られずに、の意である。
 二句「落つる涙の」は、落ちる涙が、の意である。前の涙川の一連を受けて、涙を詠む歌が続いている。
 三句「積もりつつ」は、積もり重なりながら、の意で、「つつ」は継続を表す。
 四句「数かくばかり」は、数を書くほどに、これほどまでに、の意で、「かく」は水に数を「書く」意と、このように、の意の「斯く」を掛けた掛詞である。次歌の第八百七十九首の四句「かく数ならぬ」と、「数」と「かく」の組み合わせを共有している。
 結句「なりにけるかな」は、なってしまったことだ、の意で、「かな」は詠嘆を表す。

かく:水に数を「書く」意と、このようにの意の「斯く」を掛ける
作者
藤原惟成
出典
拾遺和歌集
前の歌
涙川底の水屑となりはてて 恋しき瀬々に流れこそすれ
次の歌
かつ見つつ影はなれゆく水の面に かく数ならぬ身をいかにせん