憂かりけるふしをば捨てて白糸の
今くる人と思ひなさなん
- 歌の意味
-
つらかった折節のことは、白糸の節を捨てるように捨ててしまって、白糸を繰るように、今やって来た新しい人だと思いなしてほしい。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 899
詞書「題しらず」
白糸を繰るときに節を取り除くように、過去のつらかったことは捨てて、私を今初めてやって来た人と思ってほしいと願う歌である。糸の節と折節、糸を繰ると来るとを掛け、わだかまりを水に流して関係をやり直したいという願いを、糸の縁語でまとめている。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆し、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。
初句「憂かりける」は、つらかった、の意で、「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形である。
二句「ふしをば捨てて」は、節を捨てて、の意で、「ふし」は糸の「節」と、折節、出来事の意の「節」を掛けた掛詞である。
三句「白糸の」は、白い糸の、の意で、糸を「繰る」ことから「くる」を導いている。「ふし」「白糸」「くる」は縁語である。
四句「今くる人と」は、今やって来た人と、の意で、「くる」は糸を「繰る」と「来る」を掛けた掛詞である。
結句「思ひなさなん」は、思いなしてほしい、の意で、「なん」は他に対する願望を表す終助詞である。次歌の第九百首の「いとこそ」と、「糸」の音が続いている。
ふし:糸の「節」と、折節や出来事の意の「節」を掛ける
くる:糸を「繰る」と、「来る」を掛ける
おもひなす:思ひ做す。そうだと思うようにする
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
うちとなく慣れもしなまし玉簾 たれ年月を隔てそめけん
- 次の歌
-
思ふとていとこそ人に慣れざらめ しか慣らひてぞ見ねば恋しき