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在りへむと思ひもかけぬ世の中は
なかなか身をぞ嘆かざりける

歌の意味
生きながらえようとも思わないこの世の中では、かえって我が身を嘆くこともなかったのだ。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 931

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 生きながらえようとも思わないこの世の中では、かえって我が身を嘆くこともなかったのだ、と詠む歌である。命に執着しなくなったことで、逆に身の上を嘆く気持ちさえ消えてしまったという、恋に疲れた者の屈折した心が詠まれている。

 初句「在りへむと」は、生きながらえようと、の意で、「む」は意志を表す助動詞である。
 二句「思ひもかけぬ」は、思いもしない、の意である。
 三句「世の中は」は、この世の中では、の意である。前歌の第九百三十首の三句「世の中に」と、同じ語を受け継いでいる。
 四句「なかなか身をぞ」は、かえって我が身を、の意で、「なかなか」は、かえって、なまじっか、の意である。係助詞「ぞ」が結句と係り結びをなしている。
 結句「嘆かざりける」は、嘆かなかったのだ、の意で、「ける」は詠嘆を込めた過去の助動詞「けり」の連体形で、四句の「ぞ」の結びである。

ありふ:在り経。生き長らえる、月日を過ごす
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
いづ方に行き隠れなん世の中に 身のあればこそ人もつらけれ
次の歌
偽りと思ふものから今さらに 誰がまことをか我は頼まむ