恋ひ死なば恋ひも死ねとや玉桙の
道行き人に言伝もなき
- 歌の意味
-
恋い死にするなら恋い死にでもせよというのか、道を行く人に託した言伝てさえもない。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 937
詞書は前の歌に続き「題しらず」
恋い死にするなら死んでしまえというのか、道を行く人に託した言伝てさえ届かない、と詠む歌である。せめて人づての便りだけでもと待ちわびる心に、恋人からの音信の絶えたつらさが詠まれている。
作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。飛鳥時代の宮廷歌人で、万葉集を代表する歌人として歌聖と仰がれ、三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌が人麻呂の作として多く収められている。
万葉集巻十一に、結句を「言も告げなく」とする類歌が収められている。
初句「恋ひ死なば」は、恋い死にするならば、の意である。前歌の第九百三十六首の「恋ひて死ね」を受け、恋死の一連の三首目となっている。前歌の万葉集の類歌の初句と、同じ語句である。
二句「恋ひも死ねとや」は、恋い死にでもせよというのか、の意で、係助詞「や」が結句と係り結びをなしている。
三句「玉桙の」は、「道」にかかる枕詞である。
四句「道行き人に」は、道を行く人に、の意である。前歌の第九百三十六首の「門を過ぎて行く」恋人と、道を行く人とが重なっている。
結句「言伝もなき」は、言伝てさえもない、の意で、形容詞「なし」の連体形「なき」で二句の「や」を受けて結んでいる。
みちゆきびと:道行き人。道を行く人、旅人
ことづて:言伝。人に頼んで伝える言葉
- 作者
-
柿本人麻呂
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
恋ひて死ね恋ひて死ねとや我妹子が 我が家の門を過ぎて行くらん
- 次の歌
-
恋しきを慰めかねて菅原や ふしみに来ても寝られざりけり