降る雨に出でても濡れぬ我が袖の
陰にゐながらひちまさるかな
- 歌の意味
-
降る雨の中に出ても、これほどには濡れない私の袖が、雨の当たらない物陰にいながら、涙でますますぐっしょり濡れていくことよ。
- 鑑賞
-
巻第十五 恋歌五 958
詞書は前の歌に続き「題しらず」
降る雨の中に出てもこれほど濡れない私の袖が、雨の当たらない物陰にいながらますます濡れていく、と詠む歌である。雨よりも激しい涙に袖を濡らす恋の悲しみを、雨と物陰という対比によって機知的に詠んでいる。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の一人として仮名序を書き、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。
初句「降る雨に」は、降る雨の中に、の意である。前歌の第九百五十七首の「降りにこそ降れ」を受け、雨の歌が続いている。
二句「出でても濡れぬ」は、外に出ても濡れない、の意である。
三句「我が袖の」は、私の袖が、の意である。
四句「陰にゐながら」は、雨の当たらない物陰にいながら、の意である。二句の「出でて」と、四句の「陰にゐ」とを対比している。
結句「ひちまさるかな」は、ますます濡れていくことよ、の意で、「ひつ」は水に濡れる意、「かな」は詠嘆を表す。濡れる理由が涙であることを言わずに示している。
ひつ:漬つ。水に濡れる、ひたる
かげ:陰。物陰、雨の当たらない所
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
我がごとや雲の中にも思ふらむ 雨も涙も降りにこそ降れ
- 次の歌
-
これをだに書きぞわづらふ雨と降る 涙を拭ふいとまなければ