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紅の八入の衣かくしあらば
思ひそめずぞあるべかりける

歌の意味
紅に幾度も染めた衣のように、深く思い初めたけれども、こうなるのであったならば、はじめから思い初めずにいるべきであった。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 975

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 紅に幾度も染めた衣のように深く思い初めたが、こうなるとわかっていたら、思い初めずにいるべきだった、と詠む歌である。濃く染めた紅の色に深い恋心を重ね、その恋が報われないことへの後悔を詠んでいる。

 初句「紅の」は、紅色の、の意である。本巻の第九百七十八首の三句「紅の」と、同じ語を共有している。
 二句「八入の衣」は、幾度も染め汁に浸して濃く染めた衣、の意である。上の二句は、染める意から四句の「そめ」を導く序詞で、思いの深さをも表している。
 三句「かくしあらば」は、このようであるならば、の意で、「し」は強調を表す。
 四句「思ひそめずぞ」は、思い初めずに、の意で、「そめ」は「初め」に、衣を「染め」る意を掛けた掛詞である。係助詞「ぞ」が結句と係り結びをなしている。本巻の第九百七十八首の二句「思ひそめてし」と、同じ掛詞を共有している。
 結句「あるべかりける」は、いるべきであった、の意で、詠嘆の助動詞「けり」の連体形「ける」で四句の「ぞ」を受けて結んでいる。

やしほ:八入。何度も染め汁に浸して濃く染めること
おもひそむ:「思ひ初む」と、衣を「染む」を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
つらけれど恨むる限りありければ 物は言はれで音こそ泣かるれ
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ほのかにも我をみしまの芥火の あくとや人の訪れもせぬ