古典和歌stream

田子の浦に霞の深く見ゆるかな
藻塩の煙立ちや添ふらん

歌の意味
田子の浦に霞が深くかかって見えることだ。藻塩を焼く煙が立ち加わっているのだろうか。
鑑賞
巻第十六 雑春歌 1018

詞書「小一条の大臣の家の障子に」
 田子の浦に霞が深く見えるのは、藻塩を焼く煙が立ち加わっているからだろうかと詠む歌である。詞書から、小一条の大臣の家の障子の絵に添えた歌とわかる。海辺にたなびく春霞に、浦で藻塩を焼く煙を重ね、霞の深さの理由を推し量っている。小一条の大臣は、小一条の邸に住んだ大臣で、藤原師尹を指すとされる。
 作者の「よしのふ」は大中臣能宣である。伊勢神宮の祭主を務め、梨壺の五人の一人として後撰和歌集の撰進にあたった。三十六歌仙に数えられる。

 初句「田子の浦に」は、駿河国の田子の浦に、の意で、田子の浦は海辺の歌枕である。
 二句「霞の深く」は、霞が深く、の意で、本巻の第千十四首から続く霞の歌である。
 三句「見ゆるかな」は、見えることだ、の意で、「かな」は詠嘆を表す。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
 四句「藻塩の煙」は、藻塩を焼く煙、の意である。
 結句「立ちや添ふらん」は、立ち加わっているのだろうか、の意で、係助詞「や」を受けて推量の助動詞「らん」の連体形で結ぶ係り結びである。前歌の第千十七首の結句「たちな隠しそ」、次歌の第千十九首の結句「たちもこそ聞け」と、霞や煙の「立つ」を共有している。

もしほ:藻塩。海藻に海水を注ぎ、焼いて作る塩
しやうじ:障子。襖や衝立など、部屋の仕切りに用いた建具
作者
大中臣能宣
出典
拾遺和歌集
前の歌
思ふ事ありてこそ行け春霞 道さまたげにたちな隠しそ
次の歌
思ふ事言はでやみなん春霞 山路も近したちもこそ聞け