思ふ事言はでやみなん春霞
山路も近したちもこそ聞け
- 歌の意味
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思うことは言わずにおこう。春霞の立つ山路も近い。人が立ち聞きしたら困るから。
- 鑑賞
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巻第十六 雑春歌 1019
詞書「山里に忍びて女を率て詣で来て、ある男の詠み侍りける」
思うことは言わずにおこう、春霞の立つ山路も近く、人が立ち聞きしては困るからと詠む歌である。詞書から、ある男が人目を忍んで女を連れて山里に来たときに詠んだ歌とわかる。忍んで来た恋の場で、胸の思いを口にすることさえはばかる心を、霞の「立つ」と「立ち聞き」を掛けて詠んでいる。
初句「思ふ事」は、心に思うことは、の意で、本巻の第千十七首の初句「思ふ事」と同じ句である。第千十七首が思うことがあるからこそ行くと詠んだのに対し、この歌は思うことを言わずにおこうと詠み、対をなしている。
二句「言はでやみなん」は、言わずにおこう、の意で、「なん」は完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に意志の助動詞「む」がついた形である。ここで句切れとなる二句切れの歌である。
三句「春霞」は、春霞の、の意で、霞が「立つ」ことから結句の「たち」を導いている。
四句「山路も近し」は、山路も近い、の意で、ここで再び句切れとなる。
結句「たちもこそ聞け」は、立ち聞きしたら困る、の意で、「たち」は霞が「立つ」と「立ち聞き」を掛ける掛詞である。「もこそ」は懸念を表し、係助詞「こそ」を受けて已然形の「聞け」で結ぶ係り結びである。
たち:霞が「立つ」意と、「立ち聞き」の意を掛ける
ゐる:率る。連れて行く
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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田子の浦に霞の深く見ゆるかな 藻塩の煙立ちや添ふらん
- 次の歌
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春日野の荻の焼け原あさるとも 見えぬなき名をおほすなるかな