古典和歌stream

谷の戸を閉ぢやはてつる鶯の
待つに音せで春も過ぎぬる

歌の意味
谷の戸をすっかり閉ざしてしまったのか、鶯は。待っているのに声も立てないで、春も過ぎてしまった。
鑑賞
巻第十六 雑春歌 1064

詞書「右衛門督公任籠り侍りけるころ、四月一日に言ひ遣はしける」
 谷の戸をすっかり閉ざしてしまったのか、鶯は、待っているのに声も立てずに春も過ぎてしまったと詠む歌である。詞書から、藤原公任が家に籠もっていた頃、四月一日に道長が言い送った歌とわかる。籠もって姿を見せない公任を、谷の住みかを閉ざして鳴かない鶯にたとえ、春の終わりに便りもないことを恨みつつ、出てくるよう促している。次歌の第千六十五首の公任の返しと一組の贈答である。
 作者の「左大臣」は藤原道長である。藤原兼家の子で、左大臣を経て摂政太政大臣に至り、娘たちを后として摂関政治の全盛を築いた。

 初句「谷の戸を」は、谷の住みかの戸口を、の意で、鶯が冬を過ごす谷の住みかをいう。
 二句「閉ぢやはてつる」は、すっかり閉ざしてしまったのか、の意で、係助詞「や」を受けて完了の助動詞「つ」の連体形「つる」で結ぶ係り結びである。ここで句切れとなる二句切れの歌である。
 三句「鶯の」は、鶯が、の意で、籠もっている公任をたとえている。
 四句「待つに音せで」は、待っているのに声も立てないで、の意で、「で」は打消の接続助詞である。
 結句「春も過ぎぬる」は、春も過ぎてしまった、の意で、詞書の四月一日を受けている。次歌の第千六十五首の初句と二句「行きかへる春をも知らず」に受け継がれている。

たにのと:谷の戸。鶯が冬を過ごす谷の住みかの戸口
こもる:籠る。家に閉じこもって人と交わらない
作者
藤原道長
出典
拾遺和歌集
前の歌
春過ぎて散りはてにける梅の花 ただかばかりぞ枝に残れる
次の歌
行きかへる春をも知らず花咲かぬ み山隠れの鶯の声