古典和歌stream

我妹子が赤裳濡らして植ゑし田を
刈りて収めむ倉無の浜

歌の意味
いとしい妻が赤い裳の裾を濡らしながら植えた田の稲を、刈り取って収めよう。その倉がないという名の、倉無の浜よ。
鑑賞
巻第十七 雑秋歌 1123

詞書「題しらず」
 いとしい妻が赤い裳を濡らして植えた田の稲を、刈り取って収めようと詠みながら、収める倉がないという名の倉無の浜で結ぶ歌である。田植えから収穫へと続く営みを詠み、地名の「倉無」に「収めむ倉」を響かせる言葉の遊びを込めている。
 ここから第千百二十五首まで、稲を詠む歌が続いている。
 作者の「人まろ」は柿本人麻呂である。万葉集を代表する歌人で、後世、歌聖と仰がれた。三十六歌仙に数えられる。拾遺和歌集には、万葉集の歌や人麻呂歌集の歌が人麻呂の作として多く収められている。

 初句「我妹子が」は、いとしい妻が、の意である。
 二句「赤裳濡らして」は、赤い裳の裾を濡らして、の意で、田植えのさまをいう。
 三句「植ゑし田を」は、植えた田を、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 四句「刈りて収めむ」は、刈り取って収めよう、の意で、「む」は意志の助動詞である。次歌の第千百二十四首の二句「刈りつる稲は」、第千百二十五首の初句「刈りて干す」と、稲刈りを詠む点で並んでいる。
 結句「倉無の浜」は、倉無の浜、の意で、四句の「収めむ」から「倉」を導き、収める倉が無いという地名に転じている。体言止めで結んでいる。

わぎもこ:我妹子。男性が妻や恋人を親しんでいう語
あかも:赤裳。赤い色の裳
くらなしのはま:倉無の浜。豊前国にあったとされる浜
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
老いが世に憂きこと聞かぬ菊だにも うつろふ色はありけりと見よ
次の歌
秋ごとに刈りつる稲は積みつれど 老いにける身ぞ置き所なき