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世の中に牛の車のなかりせば
思ひの家をいかで出でまし

歌の意味
この世に牛の車というものがなかったならば、思いの火に燃える家を、どうして出ることができただろうか。
鑑賞
巻第二十 哀傷 1331

詞書「題しらず」
 この世に牛の車がなかったならば、思いの家をどうして出られただろうかと詠む歌である。法華経の譬喩品に説かれる三車火宅のたとえを踏まえ、煩悩の火に燃える家に遊ぶ子どもたちを、父が牛の車などで誘い出して救ったという話に、仏の教えによって迷いの世を逃れられることを重ねている。「思ひ」に「火」を掛け、仏の救いのありがたさを詠んでいる。
 法華経の譬喩品の、三車火宅のたとえを踏まえている。

 初句「世の中に」は、この世に、の意である。
 二句「牛の車の」は、牛の引く車が、の意で、三車火宅のたとえの牛車をいい、仏の教えをたとえている。
 三句「なかりせば」は、なかったならば、の意で、「せ」は過去の助動詞「き」の未然形とされ、反実仮想を表す。
 四句「思ひの家を」は、「思ひ」の「ひ」に「火」を掛け、煩悩の火に燃える家、すなわち迷いの世をいう。
 結句「いかで出でまし」は、どうして出られただろうか、の意で、「まし」は反実仮想の助動詞で、三句の「せば」と呼応している。

おもひ:「思ひ」の「ひ」に「火」を掛ける
くわたく:火宅。煩悩の火に燃える家にたとえた迷いの世
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
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