古典和歌stream

三室山谷にや春の立ちぬらむ
雪の下水岩たたくなり

歌の意味
三室山の谷には、もう春が来たのだろうか。雪の下を流れる水が岩をたたく音が聞こえる。
鑑賞
巻第一 春歌上 2

詞書「堀河院の御時、百首の歌奉りける時よめる」
 堀河天皇の時代に、歌人たちが百首ずつ詠進した堀河百首の中の一首である。まだ雪の残る三室山で、雪の下を流れる水が岩を打つ音を耳にし、谷にはもう春が来たのだろうかと推し量っている。目には見えない春の訪れを、雪解け水の音という聴覚でとらえた点に趣がある。
 作者の「中納言国信」は源国信である。右大臣源顕房の子で、権中納言に至った。堀河院歌壇で活躍した歌人で、堀河百首の作者の一人である。

 初句「三室山」は、大和国の歌枕で、神の宿る山の意をもつ。竜田川のほとりの山とされ、本巻の第五十八首「神垣の三室の山」も同じ山を詠む。
 二句「谷にや春の」の「や」は疑問の係助詞で、三句の「らむ」と係り結びをなす。日の当たりにくい谷に春が来ることを推量の対象としている。
 三句「立ちぬらむ」は、春が立ってしまったのだろうか、の意である。「ぬ」は完了の助動詞、「らむ」は現在推量の助動詞の連体形で、「や」の結びとなる。ここで句切れとなる。
 四句「雪の下水」は、積もった雪の下を流れる解け水をいう。次々歌の第五首にも「雪の下水」が詠まれ、雪解けの水が春の到来を告げる趣向を共有する。
 結句「岩たたくなり」の「なり」は音や声をもとに判断する推定の助動詞で、水が岩を打つ音が聞こえることを表す。三句までの推量の根拠が、この音であることを示す。

みむろやま:大和国の歌枕で、神の宿る山
したみづ:雪や氷の下を流れる水
作者
源国信
出典
千載和歌集
前の歌
春の来るあしたの原を見渡せば 霞も今日ぞ立ちはじめける
次の歌
雪深き岩の懸け道跡絶ゆる 吉野の里も春は来にけり