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花ゆゑに知らぬ山路はなけれども
惑ふは春の心なりけり

歌の意味
花を求めて歩き回ったために、知らない山道などもうないのだけれど、それでも迷うのは、春に浮かれる心であったのだなあ。
鑑賞
巻第一 春歌上 62

詞書「花の歌とてよめる」
 「花」を題として詠んだ歌である。毎年花を求めて歩き回ってきたので、もう知らない山道などないのだが、それでも迷ってしまうのは道ではなく、花に浮かれる春の心なのだったと詠む。道に迷うことと心が惑うこととを重ね合わせ、花の季節に落ち着かない心をとらえている。
 作者の「道因法師俗名(敦頼)」は藤原清孝の子の藤原敦頼である。出家して道因と号した。老年に至るまで和歌に深く執心したことで知られる。

 初句「花ゆゑに」は、花のために、の意である。本巻の第四十九首も同じ初句で始まる。
 二句「知らぬ山路は」は、知らない山道は、の意である。本巻の第六十首が「知らぬ山路に」花を尋ね入ったのに対し、本歌は花ゆえに知らぬ山路はないと詠み、対をなす。
 三句「なけれども」の「ども」は逆接の接続助詞で、ないけれども、の意となる。
 四句「惑ふは春の」の「惑ふ」は、前歌の第六十一首の「惑ふ」を受けるが、ここでは道に迷う意から心が乱れる意へと転じている。
 結句「心なりけり」の「なりけり」は気づきの詠嘆を表す。次歌の第六十三首も同じ「心なりけり」で結ばれ、花をめぐる心の働きを詠む歌が続く。

まどふ:道に迷う、心が乱れる
作者
道因
出典
千載和歌集
前の歌
暮れ果てぬ帰さは送れ山桜 誰がために来て惑ふとか知る
次の歌
年を経て同じ桜の花の色を 染めますものは心なりけり