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今日かくる袂に根させあやめ草
うきはわが身にありと知らずや

歌の意味
今日、袂に掛ける菖蒲草よ、この袂に根を張れ。お前の好む泥の「うき」ならぬ、つらい「憂き」は、このわが身にこそあると知らないのか。
鑑賞
巻第十八 雑歌下 1182

詞書「五月五日、菖蒲を詠める」
 五月五日の端午の節句に、菖蒲を詠んだ歌である。今日袂に掛ける菖蒲草よ、袂に根を張れ、うきはわが身にあると知らないのか、と詠む。節句の日には菖蒲を袂や軒に掛ける習わしがあった。菖蒲は泥深い「うき」に根を張るものであるから、同じ音の「憂き」を抱えたわが身の袂にこそ根を張るがよいと呼びかけ、わが身の憂さを菖蒲に訴えた戯れの歌である。
 作者の「道因法師」は藤原清孝の子である。俗名を敦頼といい、老年に至るまで和歌に熱心に打ち込んだことで知られる。
 誹諧歌の一連の三首目で、前歌の卯の花に続き、夏の菖蒲を詠む。

 初句「今日かくる」の「今日」は五月五日の節句で、「かくる」は掛ける、の意の連体形である。
 二句「袂に根させ」の「根させ」は、根を張る意の「根さす」の命令形で、袂に根を張れ、と三句の「あやめ草」に呼びかけている。
 三句「あやめ草」は菖蒲のことで、呼びかけの形である。ここで句切れとなる。
 四句「うきはわが身に」の「うき」は、泥深い沼地を言う「うき」と、つらい意の「憂き」とを掛けている。
 結句「ありと知らずや」の「や」は疑問の終助詞で、知らないのか、と菖蒲に問いかけている。

うき:泥深い沼地の意と、つらい意の「憂き」とを掛ける
あやめぐさ:菖蒲、端午の節句に軒や袂に掛けて邪気を払った
ねさす:根を張る
作者
道因
出典
千載和歌集
前の歌
卯の花よいでことごとしかけ島の 波もさこそは岩を越えしか
次の歌
照射して箱根の山にあけにけり ふたよりみよりあふとせしまに