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湊川夜舟漕ぎ出づる追ひ風に
鹿の声さへ瀬戸渡るなり

歌の意味
湊川から夜舟を漕ぎ出す追い風に乗って、鹿の声までもが海峡を渡ってゆくのが聞こえる。
鑑賞
巻第五 秋歌下 315

詞書は前の歌に続き「夜泊鹿といへる心をよめる」
 「夜泊鹿」の題で詠んだ歌である。湊川から夜舟を漕ぎ出すと、舟を押す追い風に乗って、鹿の声までもが舟とともに海峡を渡ってゆく、と詠む。風に運ばれる鹿の声を、舟に連れ添って旅をする道連れのようにとらえている。
 作者の「道因法師」は藤原敦頼である。藤原清孝の子で、晩年に出家した。歌道への執心の深さで知られ、小倉百人一首にも歌が採られている。
 一連の一首目の第三百十二首と同じ初句「湊川」で始まり、前歌の第三百十四首と同じく湊を漕ぎ出す舟を詠んで「夜泊鹿」の一連を結ぶ。

 初句「湊川」は、一連の一首目の第三百十二首と同じ初句で、一連の初めと終わりが呼応する。
 二句「夜舟漕ぎ出づる」は八音の字余りである。「夜舟」は夜に漕ぎ出す舟で、前歌の第三百十四首の「漕ぎ出づれば」と同じ語を用いる。
 三句「追ひ風に」の「追ひ風」は、舟の進む方向へ後ろから吹く風である。
 四句「鹿の声さへ」の「さへ」は添加の副助詞で、舟ばかりでなく鹿の声までも、の意である。
 結句「瀬戸渡るなり」の「なり」は音によって判断する推定の助動詞で、声が海峡を渡ってゆくのが聞こえる、の意である。前歌の第三百十四首の「瀬戸」と同じ語を用いる。

よぶね:夜に漕ぎ出す舟
おひかぜ:舟の進む方向へ後ろから吹く風
せと:陸と陸に挟まれた狭い海峡
作者
道因
出典
千載和歌集
前の歌
夜をこめてあかしの瀬戸を漕ぎ出づれば はるかに送るさを鹿の声
次の歌
宮城野の小萩が原を行くほどは 鹿の音をさへわけて聞くかな