飽かなくに袖につつめば散る花を
うれしと思ふになりぬべきかな
- 歌の意味
-
見飽きることもないのに散ってしまう花を袖に包むと、散る花をうれしいと思うようになってしまいそうだ。
- 鑑賞
-
巻第二 春歌下 91
詞書「落花の心をよめる」
「落花」を題として詠んだ歌である。いくら見ても見飽きない花が散ってしまうのは惜しいが、散った花びらを袖に包み取っていると、かえって散る花をうれしいと思うようになってしまいそうだ、と詠む。本来は惜しむべき落花を、袖に包んで手元に留められる喜びへと転じた点に機知がある。
作者の「権大納言実国」は藤原実国である。内大臣藤原公教の子で、権大納言に至った。笛の名手としても知られる。
古今和歌集のよみ人しらずの歌「うれしきを何につつまむ唐衣袂ゆたかに裁てと言はましを」を踏まえ、喜びを袖に包むという発想を落花に移している。
初句「飽かなくに」は、飽きないのに、まだ見足りないのに、の意である。本巻の第九十六首も同じ初句で詠み起こし、見飽きぬうちに散る花を惜しむ。
二句「袖につつめば」は、已然形に「ば」が付いた確定条件で、袖に包むと、の意である。前歌の第九十首が花を衣として身にまとったのに続き、本歌は花を袖に包む。
三句「散る花を」は、四句の「うれしと思ふ」の対象を示す。
四句「うれしと思ふに」は、うれしいと思うように、の意である。古今和歌集の「うれしきを何につつまむ」を踏まえ、喜びを包む袖に散る花を包むことを重ねる。
結句「なりぬべきかな」の「ぬべき」は、きっと〜してしまいそうだ、の意で、「かな」は詠嘆の終助詞である。惜しむべき落花を喜ぶ心になりそうな自分への驚きを表す。
あく:満ち足りる、飽きる
つつむ:包む
- 作者
-
藤原実国
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
散りかかる花の錦は着たれども 帰らむことぞ忘られにける
- 次の歌
-
桜花憂き身にかふるためしあらば 生きて散るをば惜しまざらまし