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神山の麓に馴れしあふひ草
引き別れても年ぞ経にける

歌の意味
神山の麓で親しんでいた葵草よ。斎院を退いてそこから引き別れて、もう幾年も経ってしまった。
鑑賞
巻第三 夏歌 147

詞書「賀茂の斎下り給ひてのち、祭の御阿礼の日、人の葵を奉りて侍りけるに、書きつけられて侍りける」
 式子内親王が賀茂の斎院を退いたのち、賀茂祭の御阿礼の日に、ある人が葵を贈ってきたので、それに書きつけた歌である。斎院として神山の麓で親しんだ葵草と引き別れてから、もう幾年も経ってしまった、と詠む。「あふひ」に「逢ふ日」を響かせ、葵を見るにつけ斎院として過ごした日々を懐かしむ心と、そこから遠ざかった歳月の長さとを表している。
 作者の「前斎院式子内親王」は後白河天皇の第三皇女である。賀茂斎院を務めたのち出家した。藤原俊成に和歌を学び、新古今時代を代表する女流歌人として知られる。小倉百人一首にも歌が採られている。

 初句「神山の」の「神山」は、上賀茂神社の背後にある山で、賀茂の神が降臨したと伝えられる。
 二句「麓に馴れし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、麓で親しんでいた、の意である。斎院として賀茂の地で過ごした日々をいう。
 三句「あふひ草」の「あふひ」は、賀茂祭に用いる「葵」と、「逢ふ日」とを掛ける。前歌の第百四十六首に続き葵を詠む。
 四句「引き別れても」の「引き」は、葵を引き抜く意と、別れる意の「引き別る」とを重ねる。
 結句「年ぞ経にける」の「ぞ」は係助詞で、「ける」と連体形で結ぶ。前歌の第百四十六首が日に向かう葵のひとときを詠んだのに対し、本歌は葵をとおして過ぎた歳月を詠む。

あふひ:賀茂祭に用いる「葵」と、「逢ふ日」を掛ける
いつき:斎院、神に奉仕する未婚の皇女
みあれ:賀茂祭に先立って神を迎える神事、御阿礼
作者
式子内親王
出典
千載和歌集
前の歌
葵草照る日は神の心かは 影さす方にまづなびくらん
次の歌
時鳥待つは久しき夏の夜を 寝ぬに明けぬと誰か言ひけん