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常夏の花も忘れて秋風を
松の陰にて今日は暮れぬる

歌の意味
常夏の花を愛でることも忘れて、松の木陰で秋風のような涼しい風に吹かれながら、今日一日を暮らしてしまった。
鑑賞
巻第三 夏歌 207

詞書「松下納涼といへる心をよみ侍りける」
 「松下納涼(松の下の納涼)」という題で詠んだ歌である。夏の盛りに咲く常夏の花を愛でることも忘れて、松の木陰で秋風のような涼しい風に吹かれながら、今日一日を過ごしてしまった、と詠む。「常夏」と「秋風」とを対比させ、夏の暑さの中にありながら、松陰では秋のような涼しさを感じるという納涼の心を表している。
 作者の「中務卿具平親王」は村上天皇の第七皇子である。中務卿を務め、後中書王と呼ばれた。詩歌や学問に優れた。

 初句「常夏の」の「常夏」は撫子の異名で、その名に、いつまでも夏である意を響かせる。前歌の第二百六首の唐撫子に続き、撫子を詠む。
 二句「花も忘れて」は、常夏の花を愛でることも忘れて、の意である。
 三句「秋風を」は、秋風のような涼しい風を、の意で、「常夏」と対比させる。本巻の第二百二十首、第二百二十五首も秋風を詠み、夏の巻の終わりに向けて秋の気配が深まってゆく。
 四句「松の陰にて」は、松の木陰で、の意で、詞書の「松下」を表す。
 結句「今日は暮れぬる」の「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形で、今日は暮れてしまった、の意である。

とこなつ:撫子の異名
作者
具平親王
出典
千載和歌集
前の歌
見るがなほこの世のものと覚えぬは 唐撫子の花にぞありける
次の歌
春秋も後の形見はなきものを 氷室ぞ冬の名残なりける