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春秋も後の形見はなきものを
氷室ぞ冬の名残なりける

歌の意味
春も秋も、過ぎたあとに残る形見はないものなのに、氷室だけは冬の名残なのであった。
鑑賞
巻第三 夏歌 208

詞書「氷室をよみ侍りける」
 「氷室」を題として詠んだ歌である。春も秋も、過ぎ去ってしまえばその形見として残るものはないのに、氷室に貯えられた氷だけは、夏になっても冬の名残として残っている、と詠む。季節の名残の残らなさと、夏まで残る冬の氷とを対比させ、氷室の珍しさを興じている。ここから氷室の歌が続く。
 作者の「仁和寺後入道法親王」は覚性法親王である。鳥羽天皇の第五皇子で、仁和寺に入って出家し、仁和寺の御室として重んじられた。和歌を好み、歌会を催して歌人たちを集めた。

 初句「春秋も」は、春も秋も、の意である。
 二句「後の形見は」の「形見」は、過ぎ去ったものをしのぶよすがとなるものである。本巻巻頭の第百三十六首「春の形見もとまらざりけり」と響き合い、春の形見の残らなさを再び詠む。
 三句「なきものを」の「ものを」は逆接で、ないものなのに、の意となる。
 四句「氷室ぞ冬の」の「氷室」は、冬の氷を夏まで貯えておく室である。「ぞ」は係助詞で、結句の「ける」と係り結びをなす。次歌の第二百九首も氷室を詠む。
 結句「名残なりける」の「ける」は気づきを表す「けり」の連体形で、「ぞ」の結びとなる。

ひむろ:冬の氷を夏まで貯えておく室
かたみ:過ぎ去ったものをしのぶよすがとなるもの
なごり:過ぎ去ったあとに残るもの
作者
覚性法親王
出典
千載和歌集
前の歌
常夏の花も忘れて秋風を 松の陰にて今日は暮れぬる
次の歌
あたりさへ涼しかりけり氷室山 まかせし水の凍るのみかは