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岩たたく谷の水のみおとづれて
夏に知られぬ深山辺の里

歌の意味
岩を打って流れる谷川の水音だけが訪れて、夏には知られることのない、奥深い山のほとりの里であることよ。
鑑賞
巻第三 夏歌 221

詞書「刑部卿頼輔歌合し侍りけるに、納涼の心をよめる」
 刑部卿藤原頼輔が催した歌合で、「納涼」を題として詠んだ歌である。奥深い山のほとりの里には、岩を打って流れる谷川の水音だけが訪れ、夏はこの里を知らずに通り過ぎてゆく、と詠む。夏を擬人化し、夏にさえ見つけられない山里の涼しさを、谷川の音とともに描いている。
 作者の「前参議教長」は藤原教長である。大納言藤原忠教の子で、参議に至った。保元の乱で崇徳院方に加わって常陸に流された。能書家としても知られ、崇徳院の久安百首の作者の一人である。
 本歌と次歌の第二百二十二首は、ともに頼輔の歌合で納涼を詠んだ二首である。

 初句「岩たたく」は、岩を打つ、の意で、流れの激しい谷川をいう。
 二句「谷の水のみ」の「のみ」は限定で、谷川の水だけが、の意である。
 三句「おとづれて」は、訪れて、の意で、水の「音」を響かせる。
 四句「夏に知られぬ」の「れ」は受身の助動詞「る」の未然形、「ぬ」は打消の助動詞の連体形で、夏に知られない、の意である。本巻の第二百十首「夏のほかなる」、第二百十二首「ほかより夏を」と同じく、夏の外にある涼しさを詠む。
 結句「深山辺の里」は体言止めで、奥深い山のほとりの里をいう。

おとづる:訪れる
みやまべ:奥深い山のほとり
作者
藤原教長
出典
千載和歌集
前の歌
秋風は浪とともにや越えぬらん まだき涼しき末の松山
次の歌
岩間より落ちくる滝の白糸は むすばで見るも涼しかりけり