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遠ざかる音はせねども月清み
氷と見ゆる志賀の浦波

歌の意味
波が遠ざかってゆく音はしないけれども、月が清らかなので、凍ったかと見える志賀の浦の波よ。
鑑賞
巻第四 秋歌上 289

詞書「法性寺入道前太政大臣の家にて、月の歌よませ侍りける時、よめる」
 法性寺入道前太政大臣藤原忠通の邸で月の歌を詠ませた際に詠んだ歌である。汀が凍って波の音が遠ざかってゆくわけではないけれども、月の光が清らかなので、志賀の浦の波は氷と見える、と詠む。汀の凍る冬の景を詠んだ古歌を踏まえ、秋の月光が湖の波を氷のように見せる景を描いている。
 作者の「太宰大弐重家」は藤原重家である。左京大夫藤原顕輔の子で、大宰大弐に至った。藤原清輔の弟で、六条藤家の歌人である。
 後拾遺和歌集の快覚法師の歌「さ夜更くるままに汀や凍るらむ遠ざかりゆく志賀の浦波」を本歌とし、本歌が汀の凍って遠ざかる波音を詠んだのに対し、音は遠ざからないが月光で氷と見えると詠み変えている。本巻の第二百九十四首も志賀の唐崎の波と月光の氷とを詠み、本歌と呼応する。

 初句「遠ざかる」は、波の音が遠ざかってゆく、の意で、本歌の「遠ざかりゆく」を踏まえる。
 二句「音はせねども」の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形、「ども」は逆接で、音はしないけれども、の意である。実際には汀は凍っていないことを示す。
 三句「月清み」の「み」は原因を表す接尾語で、月が清らかなので、の意である。
 四句「氷と見ゆる」は、氷と見える、の意である。本巻の第二百七十九首「冬の氷」、第二百九十四首「消えぬ氷」も月光を氷に見立てる。
 結句「志賀の浦波」は体言止めで、琵琶湖西岸の志賀の浦に寄せる波をいう。本歌の結句をそのまま用いる。

しが:近江国の地名で、琵琶湖西岸の歌枕
作者
藤原重家
出典
千載和歌集
前の歌
秋の夜や天の川瀬は凍るらむ 月の光の冴えまさるかな
次の歌
常よりも身にぞしみける秋の野に 月澄む夜半の荻の上風