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はるかなる唐土までも行くものは
秋の寝覚めの心なりけり

歌の意味
はるか遠い唐土までも行くものは、秋の夜に目を覚ましたときの心なのだった。
鑑賞
巻第五 秋歌下 302

詞書「題しらず」
 秋の夜にふと目を覚まし、眠れないまま物思いにふけるとき、その心ははるか遠い唐土にまで行ってしまう、と詠む。海を隔てた異国という、人の身では容易に行けない遠さを持ち出すことで、秋の夜長の寝覚めに果てしなく広がってゆく物思いの深さを表している。秋歌下の巻頭を飾る一首である。
 作者の「大弐三位」は藤原賢子である。藤原宣孝と紫式部の娘で、後冷泉天皇の乳母を務めた。夫の高階成章が大宰大弐となったことからこの名で呼ばれる。小倉百人一首にも歌が採られている。
 巻第四の巻末の第三百一首は月の「旅寝の床」を詠んで秋歌上を結んだ。本巻はそれを受け、寝覚めの床にある人の心が遠く旅立つ歌で幕を開ける。また本巻の巻末の第三百八十六首は、秋の終わりを定めた「神代」を恨む。巻頭の唐土という空間の遠さと、巻末の神代という時間の遠さとが呼応している。

 初句「はるかなる」は、遠く隔たった、の意で、二句の「唐土」にかかる。
 二句「唐土までも」の「唐土」は中国を指す古い呼び名である。「までも」は、〜までさえ、の意で、心が行き着く先の遠さを強調する。巻末の第三百八十六首の「神代もさらに」と、遠さを示す語が巻の初めと終わりに置かれている。
 三句「行くものは」は、行くものは何かといえば、と問いを立てる形で、答えを下の句に持ち越す。
 四句「秋の寝覚めの」の「寝覚め」は、夜中にふと目が覚めることである。秋の夜長に眠れずにいるさまを示す。巻第四の巻末の第三百一首の「旅寝の床」を受け、本巻も床にある人から始まる。
 結句「心なりけり」の「けり」は詠嘆の助動詞で、それは心なのだった、と気づきを示して結ぶ。

もろこし:中国を指す古い呼び名
ねざめ:夜中にふと目が覚めること
作者
藤原賢子
出典
千載和歌集
前の歌
照る月の旅寝の床やしもと結ふ 葛城山の谷川の水
次の歌
山里は寂しかりけり木枯らしの 吹く夕暮れのひぐらしの声