さを鹿の鳴く音は野辺に聞こゆれど
涙は床のものにぞありける
- 歌の意味
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牡鹿の鳴く声は野辺で聞こえるけれども、涙はこの私の寝床にこぼれるものなのだった。
- 鑑賞
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巻第五 秋歌下 310
詞書「田上の山里にて鹿の鳴くを聞きてよみ侍りける」
田上の山里で鹿の鳴くのを聞いて詠んだ歌である。牡鹿の鳴く声は遠く野辺で聞こえるのに、涙はそこではなく、聞いている私の寝床にこぼれるものだった、と詠む。声のする野辺と涙の落ちる床とを対比させ、鹿の声に誘われて自分が泣いていることを、少し意外なこととして発見する形で表している。
作者の「源俊頼朝臣」は大納言源経信の子である。堀河院歌壇の中心的な歌人で、白河院の院宣を受けて金葉和歌集を撰び、歌論書「俊頼髄脳」を著した。小倉百人一首にも歌が採られている。
田上は近江国の地名で、俊頼はこの地にゆかりがあった。
初句「さを鹿の」の「さ」は接頭語で、「さを鹿」は牡鹿をいう。
二句「鳴く音は野辺に」の「野辺」は野原のあたりで、声のする遠い場所を示す。
三句「聞こゆれど」の「ど」は逆接の接続助詞で、聞こえるけれども、と下の句の意外な展開を導く。
四句「涙は床の」の「床」は寝床で、野辺と対をなす。声は野にあり、涙は床にある、という対比が一首の要である。
結句「ものにぞありける」の「ぞ」は係助詞で、「ける」と連体形で結ぶ。「けり」は気づきの詠嘆で、涙は床のものだったのだ、と結ぶ。
たなかみ:近江国の地名で、瀬田川の上流にあたる
とこ:寝床
のべ:野原のあたり
- 作者
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源俊頼
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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秋の夜は同じ尾上に鳴く鹿の 更けゆくままに近くなるかな
- 次の歌
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さらぬだに夕べ寂しき山里の 露の籬にを鹿鳴くなり