古典和歌stream

尾上より門田に通ふ秋風に
稲葉を渡るさを鹿の声

歌の意味
峰の上から家の前の田へと吹き通う秋風に乗って、稲葉の上を渡ってくる牡鹿の声よ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 325

詞書は前の歌に続き「鹿の歌とてよめる」
 「鹿の歌」として詠んだ歌である。峰の上から家の前の田へと吹き通う秋風に乗って、牡鹿の声が稲葉の上を渡ってくる、と詠む。山から里へと下る風の道筋に鹿の声を乗せ、実りの秋の田園の広がりを描いている。
 作者の「寂蓮法師」は藤原俊海の子である。叔父の藤原俊成の養子となり、のちに出家した。新古今和歌集の撰者の一人に任じられ、小倉百人一首にも歌が採られている。
 本歌で鹿の歌の一連が結ばれる。金葉和歌集の源経信の歌「夕されば門田の稲葉おとづれて」以来、門田の稲葉を渡る秋風は親しまれた題材で、本歌はそこに鹿の声を加えている。

 初句「尾上より」の「尾上」は山の頂、峰の上である。風の吹き出す所を示す。本巻の第三百九首も「尾上」に鳴く鹿を詠む。
 二句「門田に通ふ」の「門田」は家の門の前にある田である。峰から門田へと風の通う道筋を示す。
 三句「秋風に」は、秋風に乗って、の意で、鹿の声を運ぶものを示す。
 四句「稲葉を渡る」の「稲葉」は稲の葉で、実りの田の上を声が渡ってゆくさまをいう。
 結句「さを鹿の声」は体言止めで、本巻の第三百十二首第三百十四首と同じ結句である。鹿の歌の一連をこの結句で結ぶ。

かどた:家の門の前にある田
をのへ:山の頂、峰の上
いなば:稲の葉
作者
寂蓮
出典
千載和歌集
前の歌
いかばかり露けかるらんさを鹿の 妻恋ひかぬる小野の草臥し
次の歌
驚かす音こそ夜の小山田は 人なきよりも寂しかりけれ