夜を重ね声弱りゆく虫の音に
秋の暮れぬるほどを知るかな
- 歌の意味
-
夜を重ねるごとに声が弱ってゆく虫の音によって、秋も終わりに近づいた頃合いを知ることだ。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌下 331
詞書「百首歌たてまつりける時、よみ侍りける」
百首歌を詠進した折の歌である。夜を重ねるごとに弱ってゆく虫の声によって、秋もそろそろ暮れてゆく頃合いになったことを知る、と詠む。暦ではなく虫の声の衰えによって季節の終わりを知るという、耳でとらえた時の移ろいを描いている。
作者の「大炊御門右大臣」は藤原公能である。左大臣藤原実能の子で、右大臣に至った。崇徳院の久安百首の作者の一人である。
初句「夜を重ね」は、幾夜も重ねて、の意で、日を追って変わってゆく時の長さを示す。
二句「声弱りゆく」は、声がしだいに弱ってゆく、の意である。本巻の第三百三十三首の「弱り果てぬる」と同じく、虫の声の衰えを詠む。
三句「虫の音に」の「に」は手段、原因を示し、虫の音によって、の意である。
四句「秋の暮れぬる」の「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形で、秋が暮れてしまう、の意である。本巻の第三百三十三首の結句「秋の暮れかな」と対応する。
結句「ほどを知るかな」の「ほど」は時分、頃合いで、「かな」は詠嘆である。
ほど:時分、ころあい
くる:季節や年が終わりになる
- 作者
-
藤原公能
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
さまざまの浅茅が原の虫の音を あはれ一つに聞きぞなしつる
- 次の歌
-
秋深くなりにけらしなきりぎりす 床のあたりに声聞こゆなり