秋深くなりにけらしなきりぎりす
床のあたりに声聞こゆなり
- 歌の意味
-
秋も深くなったらしいなあ。きりぎりすの声が、寝床のあたりに聞こえる。
- 鑑賞
-
巻第五 秋歌下 332
詞書「きりぎりすの近く鳴きけるをよませ給うける」
きりぎりすが近くで鳴いていたのを詠んだ歌である。秋も深くなったらしい、きりぎりすの声が寝床のあたりに聞こえる、と詠む。野にいた虫が寒さを避けて人の住まいに近づいてくることから、秋の深まりを知ったのである。
作者の「花山院御製」は第六十五代の花山天皇である。冷泉天皇の皇子で、在位二年で出家した。和歌を好み、拾遺和歌集の成立にも関わったといわれる。
中国の詩経に、蟋蟀が十月になると人の床の下に入るとする詩があり、本歌もその趣を踏まえるとされる。
初句「秋深く」は、秋も深く、の意で、季節の深まりを示す。
二句「なりにけらしな」の「けらし」は「けるらし」がつまった形で、根拠のある推定を表す。「な」は詠嘆の終助詞である。ここで句切れとなる。
三句「きりぎりす」は今のこおろぎにあたる虫である。本巻の第三百二十九首もきりぎりすを詠む。
四句「床のあたりに」の「床」は寝所の床、寝床である。野から人の寝所近くまで虫が来たことを示す。
結句「声聞こゆなり」の「なり」は音によって判断する推定の助動詞で、声が聞こえる、の意である。秋が深まったと推定する根拠を示す。
ゆか:寝所の床、寝床
きりぎりす:今のこおろぎにあたる虫
- 作者
-
花山院
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
夜を重ね声弱りゆく虫の音に 秋の暮れぬるほどを知るかな
- 次の歌
-
さりともと思ふ心も虫の音も 弱り果てぬる秋の暮れかな