古典和歌stream

秋にあへずさこそは葛の色づかめ
あなうらめしの風のけしきや

歌の意味
秋の寒さに堪えきれず、葛の葉が色づくのはそれも当然だろう。だが、ああ恨めしい、その葉を吹き裏返す風のありさまよ。
鑑賞
巻第五 秋歌下 352

詞書「瞻西上人、雲居寺にて結縁経の後宴に歌合し侍りけるに、野風の心をよめる」
 瞻西上人が雲居寺で結縁経の供養を行い、その後の宴で催した歌合で、「野風」の題を詠んだ歌である。秋の寒さに堪えきれず葛の葉が色づくのはもっともだが、その葉を吹き裏返して白い葉裏を見せる風のありさまは、ああ恨めしい、と詠む。葛の葉が風に裏返る「裏見」と「恨み」を掛ける古来の趣向を用い、野を吹く風への恨みを表している。
 作者の「藤原基俊」は右大臣藤原俊家の子である。源俊頼と並ぶ院政期の歌壇の重鎮で、藤原俊成の師にあたる。小倉百人一首にも歌が採られている。
 本巻の第三百五首も「野風」の題で詠まれた歌で、野を吹く風の寂しさを詠んでいた。本歌は同じ題を、葛の葉を裏返す風への恨みとして詠む。

 初句「秋にあへず」の「あふ」は堪える、こらえる意で、「ず」は打消である。秋の寒さに堪えきれずに、の意である。
 二句「さこそは葛の」の「さこそ」は、そのように、それも当然、の意である。「葛」は秋の七草の一つで、風に吹かれると白い葉裏を見せる。
 三句「色づかめ」は、二句の「こそ」を受けて已然形で結ぶ。「め」は推量の助動詞「む」の已然形で、こそ〜め、の形で、色づくのはもっともだが、と逆接的に下へ続く。
 四句「あなうらめしの」の「うらめし」は、葛の葉が裏を見せる「裏見」の意と「恨めし」の意を掛ける掛詞である。「あな」は感動詞で、ああ、と嘆く。
 結句「風のけしきや」の「けしき」は様子、ありさまで、「や」は詠嘆である。題の「野風」を最後に示す。

くず:秋の七草の一つで、風に吹かれると白い葉裏を見せる
うらめし:葉の裏を見せる「裏見」の意と、「恨めし」の意を掛ける
けしき:様子、ありさま
あふ:堪える、こらえる
作者
藤原基俊
出典
千載和歌集
前の歌
事ごとに悲しかりけりむべしこそ 秋の心を愁へといひけれ
次の歌
初時雨降るほどもなくしもと結ふ 葛城山は色づきにけり