古典和歌stream

妹がりと佐保の川辺を我が行けば
小夜か更けぬる千鳥鳴くなり

歌の意味
恋しい人のもとへと佐保の川辺を私が行くと、夜が更けたのだろうか、千鳥が鳴いている。
鑑賞
巻第六 冬歌 424

詞書「権大納言道綱家歌合に、千鳥をよめる」
 権大納言藤原道綱の家の歌合で、千鳥の題で詠んだ歌である。恋しい人のもとへと佐保の川辺を行くと、夜が更けたのだろうか、千鳥が鳴いている、と詠む。恋人のもとへ急ぐ夜道で耳にする千鳥の声から、夜の更けたことを知り、冬の川辺の寒々とした情景に恋の思いを重ねている。
 作者の「藤原長能」は伊勢守藤原倫寧の子である。藤原道綱母の兄弟にあたり、花山院のもとで活躍した歌人である。中古三十六歌仙の一人である。
 第四百二十四首から第四百二十八首までの五首は千鳥を詠む歌である。千鳥は冬の川辺や海辺で鳴く鳥として、冬の景物とされた。
 拾遺和歌集の紀貫之の歌「思ひかね妹がり行けば冬の夜の川風寒み千鳥鳴くなり」と、恋人のもとへ行く夜道に千鳥を聞くという趣向を同じくしている。

 初句「妹がりと」の「妹がり」は、恋しい人のいるところへ、の意である。「妹」は男性から妻や恋人を親しんで呼ぶ語である。
 二句「佐保の川辺を」の「佐保」は大和国の地で、佐保川は千鳥の鳴く川として詠まれる歌枕である。
 三句「我が行けば」の「ば」は順接の確定条件で、私が行くと、の意である。
 四句「小夜か更けぬる」の「か」は疑問の係助詞で、「ぬる」と連体形で結ぶ。夜が更けたのだろうか、と推し量り、ここで句切れとなる。
 結句「千鳥鳴くなり」の「なり」は音による推定の助動詞で、千鳥の鳴く声が聞こえる、の意である。本巻の第四百二十八首も同じ結句を置く。

いもがり:恋しい人のいるところへ
さほ:大和国の地。佐保川は千鳥の鳴く川として詠まれる
さよ:夜
ちどり:冬の川辺や海辺で鳴く小形の鳥
作者
藤原長能
出典
千載和歌集
前の歌
夕まぐれ山片づきて立つ鳥の 羽音に鷹を合はせつるかな
次の歌
須磨の関有明の空に鳴く千鳥 かたぶく月は汝も悲しき