- 歌の意味
-
葦鴨の群れ集まる入り江に映る月の光は、氷のように、波の数ほどに砕け散っている。
- 鑑賞
-
巻第六 冬歌 437
詞書「月前水鳥といへる心をよめる」
月前水鳥の題で詠んだ歌である。葦鴨の群れ集まる入り江に映る月の光は、氷のように、波の数ほどに砕け散っている、と詠む。冬の月の冴えた光を氷に見立て、鴨が泳ぎ騒いで立つ波によって水面の月影がいくつにも砕けるさまを描いている。
作者の「前左衛門督公光」は藤原公光である。権中納言藤原季成の子で、権中納言、左衛門督を務めた。
第四百二十九首から第四百三十七首までの九首は、水鳥を詠む歌である。鴛鴦や鴨などの水鳥は、冬の水辺の景物とされた。本歌はその結びの歌で、水鳥と月と氷とを取り合わせ、次の第四百三十八首からの月と氷の歌へとつないでいる。
初句「葦鴨の」の「葦鴨」は、葦の生える水辺にいる鴨である。本巻の第四百三十三首と同じ語である。
二句「すだく入り江の」の「すだく」は、群がり集まる意である。
三句「月影は」の「月影」は月の光で、ここでは水面に映った月をいう。
四句「氷ぞ波の」の「氷」は、冷たく冴えた月影を氷に見立てたものである。「ぞ」は強意の係助詞で、結句の「くだくる」と連体形で結ぶ。
結句「数に砕くる」は、波の数ほどに砕ける、の意で、鴨の立てる波で月影が砕けるさまをいう。本巻の第四百四十三首、第四百四十四首も「砕く」の語を用いる。
すだく:群がり集まる
つきかげ:月の光、また水面に映った月
くだく:砕ける
- 作者
-
藤原公光
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
置く霜を払ひかねてやしをれ伏す かつみが下に鴛鴦の鳴くらん
- 次の歌
-
夜を重ね結ぶ氷の下にさへ 心深くも宿る月かな