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昔見し心ばかりをしるべにて
思ひぞ送るいきの松原

歌の意味
昔見た覚えのある心だけを道しるべとして、私は思いのうちであなたを送ってゆくことだ。あなたの行く生の松原まで。
鑑賞
巻第七 離別歌 476

詞書「宇佐の使の餞しける所にて、よみ侍りける」
 宇佐の使、すなわち朝廷から宇佐八幡宮へ遣わされる使いが筑紫へ旅立つにあたり、その餞別の席で詠んだ歌である。かつて見た覚えのある心だけを道しるべとして、思いのうちで旅立つ人を送ってゆこう、生の松原まで、と詠む。身は都にとどまっても、心だけは旅立つ人に添って筑紫の地まで行く、という送別の思いをこめている。離別歌の巻頭を飾る一首である。
 作者の「藤原実方朝臣」は侍従藤原定時の子である。叔父の藤原済時の養子となり、左近衛中将に至った。のちに陸奥守として任地に下り、その地で没した。中古三十六歌仙の一人で、小倉百人一首にも歌が採られている。
 本歌は離別歌の巻頭である。巻末の第四百九十七首は「心隔つな」と別れてゆく人に心を隔てるなと願って巻を閉じる。巻頭の「心ばかりを」と巻末の「心隔つな」とが、離れても通い合う心を詠んで呼応している。

 初句「昔見し」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、かつて見た、の意である。作者がかつて目にした筑紫の地の記憶をいう。
 二句「心ばかりを」の「ばかり」は限定の副助詞で、心だけを、の意である。身は都に残り、心だけが旅立つ人に添うことを示す。巻末の第四百九十七首の「心隔つな」と、「心」の語で呼応する。
 三句「しるべにて」の「しるべ」は道案内の意で、昔の記憶を道案内として、の意となる。
 四句「思ひぞ送る」の「ぞ」は強意の係助詞で、「送る」と連体形で結ぶ。思いのうちで旅立つ人を送ってゆく意である。
 結句「いきの松原」は筑前国の歌枕の生の松原で、地名の「いき」に「行き」を掛け、旅立つ人の行く先を示す。体言止めとし、遠い地名で余情を残す。

うさのつかひ:朝廷から宇佐八幡宮へ遣わされる使い
はなむけ:旅立つ人を送る宴や贈り物
しるべ:道案内、手引き
いきのまつばら:筑前国の歌枕の生の松原で、「いき」に「行き」を掛ける
作者
藤原実方
出典
千載和歌集
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都にて送り迎ふと急ぎしを 知らでや年の今日は暮れなん
次の歌
別れより勝りて惜しき命かな 君に再び逢はむと思へば